終夜灯ブライトブライト'

書きたいことを書きたいときに書く練習 アメブロから引っ越し

無題

新しい家までの帰路は街灯りも疎らで、毎日のように上を向いて星を眺めながら歩いている。オリオン座ぐらいしか知らなくても、暗がりの中の小さな光を見つけるのが楽しい。さっきまでは何もない暗闇だったはずの空間に、目が慣れてくるにつれてぼんやりと浮かび上がる小さな白い点は、こうしてじっと夜空を見上げなければ得られなかったのだと思うと、平凡な帰り道にささやかな報酬を得られたような気持ちがして、誰に話すことでもないけれど少し誇らしい気分になる。

 

星を見ていると否が応でもそれ以外の光も視界に入ってくる。人工的な明滅は、化学繊維に火を点けた時のように光と音を立てながら、胸の中でジリジリと記憶を燃やしていく。ベランダから星を見た日。ゴンドラ坂を上りながら、はるか高くを見上げた日。「あれは飛行機の灯りだ」と諭されるたびに、期待を裏切られた落胆と決まりの悪さを感じ、だんだん下ばかり見るようになったこと。過去につられてうな垂れかけた首を慌てて上げると、黒い煙の向こうに、幾分か記憶に新しい情景が見えた。息が苦しいのは機内の空気が薄いせいか。胸が痛いのは気圧が急激に変化しているからか。

私が見ているのはもうずっと前の星の瞬きで、本当はもう存在しないものだって沢山あるということ、理解はしているつもりでいる。
気が付けば飛行機は視界をとうに通り過ぎていた。